会場に人を集めながらオンラインにも配信するイベントでは、会場づくりで決めることが5つ増えます。カメラをどこに置くか、画面に映る範囲に何を置くか、音をどう取るか、顔にどう光を当てるか、回線と電源をどう確保するか。この5つを席の並べ方や装飾より先に決めておくと、後戻りがかなり減ります。
会場にいる方と画面で見ている方とでは、見えているものも聞こえているものも違うからです。会場は「一番後ろの席から見えるか」で作りますが、画面に出るのはカメラが向いた範囲だけ。会場の左右に置いた装飾は画面にほとんど映らない一方、登壇者の背面のパネルは最初から最後まで映り続けます。
人数の重みも変わります。2026年8月に東京で開かれたトランジション シンポジウム 2026は、会場(Tokyo Innovation Base)が100名、オンラインが500名という定員の設定でした(出典:トランジション シンポジウム 2026 公式サイト・2026年9月23日確認)。画面の向こうのほうが多い会も、普通にあります。
この記事では、会場で先に決める5つを具体的に、そのあと会議室にカメラ1台の規模から順に3つの作り方を、当日に増える持ち場、音楽と映り込みの手続きまでまとめました。配信そのものは配信の専門会社と組む前提で、イベントの企画・制作・施工をしている会社の目線から、会場側の話に絞って書いています。
会場+オンライン配信のイベントで、会場づくりの何が変わるのか
一番大きく変わるのは、「作り込む範囲」の決め方です。会場だけのイベントなら、会場に入った方の視界に入るところ全部が対象になります。配信が入ると、そこに「カメラのフレームの中」という、もうひとつの狭い舞台が生まれます。
中小規模のセミナーやシンポジウムでは、この形がすっかり定着しました。日本イベント産業振興協会の「2024年 イベント産業規模推計」でも、中小規模の学会・会議・業界セミナーなどの分野について、コロナ禍でオンライン開催やハイブリッド開催が定着したとまとめられています(出典:一般社団法人日本イベント産業振興協会「2024年 イベント産業規模推計」(PDF)・2025年6月18日発表・2026年9月23日確認)。
ここで一度、目的に戻ってみてください。配信を付ける目的は、たいてい「イベントを配信すること」そのものではなく、会場に来られない方にも、会場と同じ中身が届くことのはずです。
そう考えると、会場側でやるべきことがはっきりします。画面の向こうの方に、会場と同じだけの情報が届いているか。登壇者の顔が見えて、話が聞き取れて、資料が読めて、誰が何を発表しているのかが分かる状態になっているか。豪華に見せることより、まずはこの4つを満たすほうが先になります。
逆に言えば、会場にいる方の体験は落とさなくて大丈夫です。配信のためにステージを平板にしたり、照明の演出をやめたりする必要はありません。両方を成り立たせるための調整が、次の5つになります。
会場で先に決める5つ|カメラ・背景・音・照明・回線
5つとも、会場を押さえるとき、遅くとも会場の下見のときに決めておきたい項目です。会場の図面に「カメラはここ」「映る範囲はここまで」と書き込んでから、席と装飾の話に進む順番をおすすめします。

カメラの位置は、席を並べる前に決める
カメラを置くと、その場所にあったはずの席がなくなります。正面から撮るなら会場の中央後方、つまり一番見やすい列の真ん中あたりを三脚1本ぶん空けることになります。
席を並べてから「カメラはどこに置きましょう」という話になると、真ん中の席を外すか、斜めから撮るかの二択になりがちです。斜めから撮ると、画面では登壇者がずっと横を向いているように見えやすくなります。
決めておくのは、三脚の位置、カメラから配信卓までのケーブルの通り道、そのケーブルを人がまたぐ場所の養生の3つ。通路を横切るなら、ケーブルマットかガムテープでの養生が要ります。会場によっては床への直貼りができないので、下見のときに聞いておいてください。
質疑応答で会場の方を映す予定があるなら、2台目の置き場所も一緒に決めます。1台しかないカメラを途中で振ると、その間の映像がぶれて見づらくなります。
背景は、カメラに映る範囲だけ作り込む
登壇者の背面は、画面に最初から最後まで映り続ける場所です。ここだけは手を抜かないほうがいいところで、逆に言うと、装飾の予算はここに寄せると効きます。
会場が横に広くても、カメラのフレームに収まる背景の幅はそれほど広くありません。下見のときにカメラを置く位置からスマートフォンを構えてみて、画面の左右の端がステージのどこに当たるかを養生テープで印をつけておくと、作るべき幅がその場で分かります。バックパネルやタペストリーは、その幅に合わせて作れば足ります。
入れる内容は、イベント名、主催者名かロゴ、日付の3つに絞るとすっきりします。細かい協賛社名やプログラムを敷き詰めると、画面で見たときにどれも読めません。文字の大きさは、デザインができた段階でスマートフォンに表示し、腕を伸ばした距離から読めるかを確かめておけば失敗しにくくなります。
無地の白い壁を背にするのは、できれば避けたいところです。白い壁はカメラが明るさを合わせづらく、人の顔が暗く沈みやすくなります。濃い色の布を1枚垂らすだけでも、ずいぶん見やすくなりますよ。
ステージを組む場合の高さの決め方や、設営の流れと費用の内訳は、ステージ設営の流れと費用の考え方に書いています。
音は、会場のスピーカーではなく音響卓から分けてもらう
画面の向こうに届く音は、配信に乗せたマイクが拾ったぶんだけになります。ここが会場側で一番見落とされやすいところです。
会場のスピーカーから出た音をカメラの内蔵マイクで拾うと、部屋の反響が混ざって聞き取りにくくなりやすくなります。音響の卓から配信用に音を1系統分けてもらう形が基本で、会場に音響のオペレーターが入るなら、下見の段階で「配信用に音を出せますか」と聞いておけば話が早いです。
決めるのはマイクの本数と種類。登壇者用のピンマイクかハンドマイク、司会用、質疑応答で客席に回すマイク、パネルディスカッションなら人数分。公立のホールでは附属設備として本数ごとに使用料がかかることが多く、たとえば武蔵野市民文化会館の附属設備使用料は、ワイヤレスマイクロホン1本1,500円、コンデンサーマイクロホン1本1,200円と決められています(出典:武蔵野市民文化会館「附属設備 使用料」・2026年9月23日確認)。本数は事前の申込制なので、進行を固めるときに一緒に数えておきましょう。
もうひとつ、会場の拍手や笑い声はマイクに乗りにくいので、画面の向こうは静かに感じられます。司会の方に「会場から大きな拍手をいただいています」と言葉にしてもらうだけで、画面の向こうの空気がだいぶ変わります。
照明は、演出用とは別に「顔に当てる光」を用意する
舞台の照明は、客席を落として舞台を明るくするのが基本の組み方です。ところがカメラは人の目より暗さに弱く、顔に正面から光が当たっていないと、目のまわりが影で沈んで写りやすくなります。
演出用の色付きの明かりやバックからの光はそのままでいいので、正面から顔を照らす明かりを1系統足してもらってください。ホールなら客席上部のシーリングライトが、その役割をします。
背面のバックパネルにも光が要ります。ここが暗いと、せっかく作ったロゴもイベント名も画面で読めません。舞台前方だけを明るくして背景が真っ暗、という状態は会場ではあまり気になりませんが、画面では目立ちます。
照明の設備も、本数や系統ごとに使用料が決まっています。前掲の武蔵野市民文化会館では、調光装置1式4,000円、第1シーリングライト1列5,000円、大アッパーホリゾントライト1列6,000円と決められています。どこを何列使うかで金額が動くので、照明のプランは下見の場で担当の方と一緒に決めると早いです。
回線と電源は、申込に期限があるものとして扱う
配信は会場のWi-Fiに乗せず、有線のLANを引くのが基本です。来場者のスマートフォンと同じ回線を使うと、人が増えた瞬間に映像が止まりやすくなります。
会場によっては、回線そのものが申込制の有料サービスです。東京国際フォーラムのLANサービスでは、回線を占有するサービスと、会議室限定で共有するサービスが用意されていて、料金はネットワーク使用料・回線使用料・配線工事費・ネットワーク設定費・機器使用料の組み合わせで決まる仕組みになっています(出典:東京国際フォーラム「LANサービス」・2026年9月23日確認)。配線工事が入る以上、当日の思いつきでは間に合いません。
電源も同じで、持ち込む機材のぶんは別勘定になることがあります。武蔵野市民文化会館の附属設備使用料には「持込器具電源料 1kw 100円」という項目があります(前掲・武蔵野市民文化会館)。配信卓・カメラ・モニターで何kW使うのかを、機材を出す会社に聞いて申告しておきましょう。
そもそも機材の持ち込み自体に許可が要る会場もあります。沼津市民文化センターの使用上の注意事項には「特別な設備を持ち込む時は、事前に許可を受けてください」と書かれています(出典:公益財団法人沼津市振興公社「沼津市民文化センター 使用上の注意事項」・2026年9月23日確認)。下見のときに、回線・電源・持ち込みの3つはまとめて確認しておくと安心です。
この5つを下見の場で書き込めるシートを用意しました。会場に聞くことと決めることを1枚にまとめてあるので、埋めたまま会場の担当の方や配信の会社に渡せます。
規模別の作り方|会議室にカメラ1台から
ここからは、手軽なものから順に3つ並べます。自分たちの人手と予算でどこまでできそうかを見ながら読んでみてください。いきなり大きな形から入る必要はまったくありません。
会議室にカメラ1台と、いまあるプロジェクター
社内の会議室や貸会議室に、三脚のカメラを1台とノートPCを持ち込む形です。登壇者にピンマイクを1本付けて、資料はPCから画面共有で流します。背面には社名やイベント名を入れたタペストリーを1枚垂らすだけ。
説明会、勉強会、採用セミナーのように、話が主役で30〜80名くらいの規模なら、この形で十分に成り立ちます。会場側で用意するものが少ないので、初回はここから試してみてください。
気をつけたいのは光の向きです。窓を背にして立つと逆光になり、顔が暗く写りやすくなります。天井の蛍光灯だけだと上から影が落ちるので、正面に照明を1灯足すか、明るい壁のほうを向いて立つように配置を決めてください。
会場にステージと背面のパネルを作る
周年式典、表彰式、新製品の発表会など、「格好がつく絵」が要る場面はこの形になります。ステージの高さは40〜60cmほど、背面のバックパネルは幅3.6〜5.4mくらいを目安に組みます。
この規模で効くのが、カメラの正面に「渡す位置」を決めておくことです。表彰式なら賞状を渡す位置、テープカットならテープの位置。会場にいる方だけを意識して舞台の端で渡してしまうと、画面には人の背中しか映りません。床にバミリ(立ち位置の目印)を貼るときに、カメラの正面かどうかを一度確認しておくと安心です。
式典の進行の組み立て方は周年記念パーティーのプログラムに、企画全体を決める順番はイベント企画の立て方にまとめています。
LEDビジョンや複数のカメラを入れる
来場者が数百人規模になったり、映像を主役にした演出を入れたりする場合は、大型のLEDビジョンやカメラ2〜3台の構成になります。LEDビジョンは会場の後ろの席からも見えて、しかも画面の向こうにも同じ映像が届くので、ハイブリッド開催との相性がいい機材なんです。
ただし、LEDの画面をカメラで撮るとちらつきや縞が出ることがあります。カメラ側とビジョン側の設定を合わせる話になるので、配信の会社と機材の会社に、下見の段階で一緒に入ってもらうのが確実です。
サイズの決め方やレンタルと購入の違いは、LEDビジョンとは?イベントでの使い方とレンタル・購入の選び方に書いています。
当日、配信が入ると増える持ち場
配信を付けると、会場の運営体制に持ち場が3つほど増えます。人数を増やせないなら、既存の持ち場と兼務できるかを先に考えておきましょう。野球でいえば、先発・中継ぎ・抑えを1人で投げ切る計画になっていないかの確認です。
| 増える持ち場 | やること | 兼務できるか |
|---|---|---|
| 配信の見張り | 配信画面を別のPCかスマートフォンで見続け、止まっていないか・音が出ているかを確認する | 受付が落ち着いたあとの受付担当が兼ねやすい |
| オンラインの質問係 | チャットやアンケートに来た質問を拾い、司会に紙かメッセージで渡す | 進行の補助と兼ねやすい |
| 資料の切り替え | 登壇者ごとのスライドを配信側に出す。登壇者自身がPCを操作しない場合に必要 | 音響・照明のオペレーターとは分けたほうが安全 |
司会の方には、会場の方と画面の方の両方に話しかけてもらいます。「オンラインでご覧の皆さま」と一言添えるだけで、画面の向こうの方の置いてけぼり感がかなり減ります。
開始前の合わせ方も決めておきましょう。会場は開場して人が入っているのに配信側は真っ暗、という時間が10分も続くと、オンラインの方は離脱しやすくなります。開始5分前から会場の様子か静止画を流しておくだけで持ちこたえます。
持ち場の分け方と指示系統の作り方はイベント当日の運営体制のつくり方に、人手が足りないときの考え方はイベントスタッフ派遣のページにまとめています。
音楽を流すときと、ご来場の方が映るとき
会場でBGMや生演奏を使うイベントでは、配信の分の手続きが別に発生します。ここは企画が固まる前に確かめておきたい部分です。
JASRACが管理する曲をイベントで使う場合、「営利を目的としないこと」「入場無料であること(演奏の対価を取らない)」「出演者などに報酬が支払われないこと」の3つをすべて満たすときは手続きが不要とされています(著作権法第38条第1項。出典:JASRAC よくあるご質問・2026年9月23日確認)。ひとつでも外れれば手続きが要ります。
そして、インターネットでの配信はこれとは別の枠組みです。JASRACは配信について、情報料や広告料などの収入がなく営利を目的としない場合の「非商用配信」の手続きの流れを用意していて、オンラインライセンス窓口「J-TAKT」から申し込む形になっています(出典:JASRAC「手続きの流れ(非商用配信)」・2026年9月23日確認)。会場での演奏の手続きが要らないケースでも、配信の側は別に確認が必要だと考えておいてください。
ご来場の方の映り込みも、決めておくと当日が楽になります。案内文と会場の入口に「配信の映像に会場の様子が映る場合があります」と掲示し、映りたくない方のために、後方に数列だけカメラに入らない席を用意しておきます。この2つで、当日に個別対応を求められる場面をだいぶ減らせます。
社内でできる範囲と、頼んだほうが早い範囲
配信のあるイベントは、社内でできることと外に頼むことの線引きが分かりにくくなりがちです。目安として整理しました。
| やること | 社内でできる | 頼んだほうが早い |
|---|---|---|
| カメラの位置決め・下見 | 会場図面に置き場所を書き込む | 図面をもとに、映る範囲と配線経路まで一緒に決める |
| 背面のパネル・タペストリー | 既製のバナースタンドに出力を入れる | カメラのフレームに合わせた寸法で設計・製作・設営する |
| ステージ・照明・音響の手配 | 会場の附属設備を申し込む | 必要な機材の量と系統を決め、まとめて手配・設営する |
| 撮影・スイッチング・配信の運用 | 小規模ならPC1台で自社対応 | 配信の専門会社に依頼する |
| 当日の人の配置 | 体制表を作って社内で割り振る | 足りない持ち場にスタッフを入れる |
AGSでは、イベントの企画から、ステージ・背面のパネル・装飾の制作と施工、LEDビジョンを使った演出、当日の運営スタッフまでをお手伝いしています。撮影や配信の運用そのものは配信の専門会社と組む形になるので、「会場側はAGS、配信は専門会社」という分け方でご相談いただければ、必要な範囲をお伝えできます。
会場の形が決まっていない段階でも構いません。対応できることはイベント企画・運営のページとステージ・音響照明のページにまとめています。お見積りは無料ですので、お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q. 会場を選ぶとき、配信のために何を確認すればいいですか?
有線LANが引けるか(引けるなら料金と申込期限)、持ち込み機材に許可が要るか、持ち込み電源の使用料、カメラを置ける後方のスペース、背面に背景を立てられるかの5点を見ます。多くの会場は設備一覧や利用案内で公開していますが、回線と電源は下見のときに口頭でも確かめておくと確実です。
Q. 配信を付けると費用はどれくらい増えますか?
会場の広さ、カメラの台数、背景やステージを作るかどうか、当日の人数で大きく変わるので、一律の目安をお出しするのは難しいところです。まずは会場の図面と、想定する来場者数・オンラインの視聴者数をお知らせいただければ、会場側にかかる範囲のお見積りを無料でお出しします。
Q. オンラインだけで開催するのでは駄目でしょうか?
目的次第です。情報を届けるだけならオンラインだけのほうが手間も費用も軽く済みます。一方、周年式典や表彰式のように「その場に居合わせたこと」自体に意味がある会や、名刺交換・立ち話から次の話が生まれる会は、会場を用意した効果が出やすくなります。会場の定員を小さめにして、その分を配信に回す組み方もできます。
Q. 準備はいつから始めればいいですか?
会場の回線や附属設備の申込に期限があるので、会場を押さえた直後に下見の日程を決めてしまうのが確実です。下見でカメラ位置・背景・音・照明・回線の5つを決め、そこから背景の製作とプログラムづくりに入る流れだと、直前の変更が減ります。式典など製作物が多い会なら、3か月前には動き出しておくと余裕があります。
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